私が持っている「ハムレット」は新潮社文庫の福田恒在訳のもの。
亡霊が「父の頼みを忘れるな」と言い残し消え去った後の、ハムレットのセリフの一部にこう書かれている。 『哀れなやつ、心配するな、このひっくりかえされた玩具箱のなかに、
すこしでも記憶力の落ちつく余地のあるかぎり大丈夫だ。』
Ay, thou poor ghost, while memory holds a seat In this distracted globe.
先に日本語訳のほうを読んでいたので「ひっくりかえされた玩具箱」は「toy box」とかそういった単語がくるのかなあと思っていた。
そうしたら原文では「distracted globe」だったので、かなりの意訳がされているのが分かってビックリ。少し調べてみたけど、「distracted globe」に「玩具箱」を連想させるような意味はない・・・と思う。多分。
普通に「混乱した頭」で良かったんじゃないですか、福田先生。と質問してみたいところだ。
しかし「玩具箱」と言えば、スチールだとかトレイラー等の動画で見られる「おもちゃの兵隊」を彷彿とさせるベネレットの衣装を連想してしまうのだけれど。
これは偶然なのか?それとも「distracted globe」には「玩具箱」的な意味があるの?かな?
それだけじゃなくて、亡霊が去って、ホレイショー達に今夜のことを口外しないよう誓わせるシーンで、ベネレットは階段の下から大きな箱を引っ張り出す。
コレを見た時はまだ原文を読んでいなかったので、ここで「あれ?玩具箱?」と思ったわけだけど、よく見ればこれは衣装箱って言った方が近いかな。
ひっくりかえされた玩具箱・・・ではなく衣装箱のようなものから取り出した上着を着せかけるのはオフィーリアなんだよねえ。
この衣装はベネレットの「狂気」を表しているんだと思うんだけど、オフィーリアが、ってところに意味はあるのかなあ。
「Words, words, words.」のシーン。
「ハムレット」の年齢は、最初は19才くらいでオフィーリアの墓のシーンあたりでは30才らしい。
この辺の「一気に年を取るハムレット」については諸説あるらしいが、私はあまり気にならない。人が感じる時間は人それぞれ違うと思っているので。
それよりも、最初の「19才」のほうがねえ。
ガートルードへのマザコン気味の愛情だとか、オフィーリアへの態度だとか、ワーワー言う割に行動に移せない不甲斐なさだとか、そういったものはハムレットがせいぜい16,17才くらいの男の子だったら納得がいくんだけどなあ。
なので、まるでおもちゃの兵隊のような格好を、ベネレットの「狂気」として具現化したのは、彼が未熟な子供の部分を持った男であるというのを観客により分かりやすくする演出なのかなと思う。
最初は帽子もかぶってキッチリ着込んでいた衣装も、心の成長とともに脱いでいく・・とかね。
あくまでも断片をみた限りの予想ですけども。
この辺の衣装の変化とベネレットの内面の変化に注目して鑑賞したい・・・と思っていますが、集中力が続くかどうか。